放送作家がテレビについて考えてみる。

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【考察】宮藤官九郎も「これが大河だ!」とうなる大河ドラマ『麒麟がくる』について考えてみる。

 

 

2020年1月19日、NHKの大河ドラマ『麒麟がくる!』 がついに始まりました!沢尻エリカさんの騒動の影響で予定より2週間遅れでの放送開始となりましたが、第1回「光秀、西へ」の視聴率はなんと19.1%と好発進!

麒麟がくる!

画像引用元:https://www.nhk.or.jp/kirin/

「別に…」視聴率が全てというわけではありませんが、視聴率が悪いと内容がどんなにすばらしくても評価されないのがテレビの世界。前年の『いだてん』の最終回の視聴率が8.3%からの倍増にNHKのスタッフの皆さんもホッと胸をなでおろしていることでしょう。

 

第1回のストーリーはこちら。

www.nhk.or.jp

 

◆宮藤官九郎も うなった映像美!

放送翌日のTBSラジオ『ACTION』で、前作『いだてん』の脚本家・宮藤官九郎さんが「いでたちとか画面のフレームとか、これが大河だ!と思いました。

別にオレが間違ってたわけじゃないんだけど、あーそうなんだという第1話でしたね」と語るほど大河ドラマらしい大河ドラマのスタートだったようです。

 

NHKの大河ドラマの視聴率が19%を超えたのは、2016年の『真田丸』以来、4年ぶりのことだそうです。たしかに『真田丸』はオモシロかったですよね。ちょっと気になったのでここ5年間の大河ドラマと視聴率を振り返ってみました。

 

 2016年『真田丸』

主人公:真田信繁(堺雅人) 舞台:戦国時代

初回視聴率:19.9% 平均視聴率:16.6%

 

2017年『女城主 直虎』

主人公:井伊直虎(柴崎コウ) 舞台:戦国時代

初回視聴率:16.9% 平均視聴率:12.8%

 

2018年『西郷どん』(せごどん)

主人公:西郷隆盛(鈴木亮平) 舞台:幕末~明治時代

初回視聴率:15.4% 平均視聴率:12.7%

 

2019年『いだてん ~東京オリムピック噺~』

主人公:金栗四三(中村勘九郎)田畑政治(阿部サダヲ) 舞台:明治~昭和時代

初回視聴率:15.5% 平均視聴率:8.2%

 

2020年『麒麟がくる!』

主人公:明智光秀(長谷川博己) 舞台:戦国時代

初回視聴率:19.1% 平均視聴率:???

 

ちなみに歴代大河ドラマで平均視聴率が最高だったのは…

1987年の『独眼竜政宗』で39.7% (初回視聴率28.7%)

主人公の戦国武将・伊達政宗を演じたのは、今や世界的なスターとなった渡辺謙さんです。

 

さらに豆知識をひとつ。歴代の大河ドラマで視聴率が最高だった回は…

 1964年『赤穂浪士』の第47話「討入り」で視聴率は

脅威の53%!(平均視聴率31.9%)

主人公の大石内蔵助を演じたのは長谷川一夫さんです。この頃の大河ドラマは放送時間が現在と違っていて、日曜日の21:30~22:15の放送だったそうです。ネットもスマホもない50年以上前のことなので、比較対象にはならないというか…多分、この記録が破られることはないでしょうね。

 

 

 

 

◆大河ドラマのヒットの法則「戦国」と「看板」?

大河ドラマの平均視聴率ベスト3とワースト3を比較してみるとヒットの法則が見えてきます。

 

NHK大河ドラマ 平均視聴率ベスト3

1987年『独眼竜政宗』主演:渡辺謙(平均視聴率:39.7%)

1988年『武田信玄』主演:中井貴一(平均視聴率:39.2%)

1989年『春日局』主演:大原麗子(平均視聴率:32.4%)

 

NHK大河ドラマ 平均視聴率ワースト3

2019年『いだてん』 主演:中村勘九郎、阿部サダヲ(平均視聴率:8.2%)

2015年『花燃ゆ』主演:井上真央(平均視聴率:12.0%)

2012年『平清盛』主演:松山ケンイチ(平均視聴率:12.01%)

 

平均視聴率トップ3は全て「戦国時代」。「看板」となる歴史上の人物は何度も映画やドラマで描かれています。対してワーストは現代、江戸~明治時代、平安時代と「戦国」以外の時代。そして「看板」となるはずの歴史上の人物はあまりドラマで描かれていない人物です。

 

有名な戦国武将などには固定ファンがいますし、逆に知らない人物には視聴者が興味を持てないのは当たり前のことかもしれません。歴史を勉強してまでドラマを見ようという人はごく小数だと思います。

 

制作者には知られざる偉人に光を当てるという意図があるのかもしれませんが、大河ドラマらしいダイナミックなシーンが描けない地味な主人公だと視聴者はなかなかついていくことができません。歴史上あまり有名でない主人公で成功したのは宮﨑あおいさん主演の『篤姫』ぐらいでしょうか?さらに「看板」という意味では、主演俳優が地味だと、視聴率は厳しくなる傾向にあるのは言うまでもありません。

 

◆もうひとつのヒットの法則は「おしん」?

「戦国」が舞台で「看板」となる歴史上の人物で俳優も「大看板」。さらに視聴率が高い大河ドラマには幼少期につらいドロドロした話が展開される傾向にあります。

これは1983~1984年にかけて平均視聴率52.6%の大ヒットをしたNHKの朝の連続テレビ小説『おしん』の影響が大きいのではないかと分析することができます。

 

『独眼竜政宗』では、少年時代に片目を失った政宗は、弟・小次郎に家督を継がせようとする母・お東の方に暗殺されそうになります。

『武田信玄』では若き日の信玄(武田晴信)が横暴な父・信虎を甲斐の国から追放してしまいます。

『春日局』で、おふくは父が謀反を起こし、大名の家老の娘から奉公人に没落。謀反人の子として、つらい幼少期をすごします。 

 

『春日局』は『おしん』と同じ橋田壽賀子さんの脚本ですので、当然と言えば当然なのですが、番組のスタートから視聴者を飽きさせない展開を用意するサービス精神はテレビ番組のお手本だと思います。最近の大河ドラマでは正直なところ、幼少期は捨て回になりがちな傾向にあったことは否めません。

 

年間やクールでの平均視聴率を考えると捨て回は作らないことがとても重要なので『麒麟がくる』では、幼少期をばっさりとカット。いきなり青年・明智光秀が登場しました。NHKもしっかり視聴率を狙いにきています。

幼少期どころか父親の存在まで「諸説あり!」の明智光秀ですから、どう描こうと歴史マニアにツッコまれるので、それを回避したのかもしれませんが…。

 

◆「麒麟がくる」は「萬平がくる」になる!

明智光秀を演じる主演の長谷川博己さんはNHKの視聴者にとって、朝ドラ『まんぷく』の萬平さんのイメージだと思います。

 

萬平さんの堅物で融通が利かないうえに、猪突猛進なキャラクターは本能寺の変を起こす明智光秀にイメージを重ねやすいのかもしれません。クライマックスの本能寺の変を主人公・光秀の視点から描くとなると明智光秀が萬平さん化して突き進むのではないかと予想できます。

 

怨みや天下を狙う目的ではなく、自らの正義を貫き通すため明智マンペイ光秀が信長を討つ!そんな展開を妄想してしまいます。来週の『麒麟がくる』第二回「道三の罠」も楽しみですね。なんだか『真田丸』がひさびさに観たくなってきました。