◆無観客が芸人に与える影響は?
マヂカルラブリー・野田クリスタルさんの優勝で幕を閉じた「R-1ぐらんぷり2020」。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、史上初の無観客で大会が行われました。
画像引用元:R-1ぐらんぷり 公式サイト
しかし、スタジオには出場する芸人のマネージャーやスタッフ数十人が、観客の代わりに笑いで出場する芸人たちをサポートしていました。オープニングでカメラに抜かれたスタッフたちが、スタジオの一ヶ所に集まっていて、かなり濃厚接触しているけど大丈夫?という懸念もありましたが…。
あえて無観客を強調するために、スタジオは放送に必要な最低限の技術スタッフとフロアディレクターだけにするという演出方法でも、緊迫感が増して良かったのではないかとも思いましたが、緊迫感ありすぎると笑えなくなる方もいると思うので、無観客をスタッフ笑いでカバーするのが丁度良い落としどころだったのでしょう。
出場する芸人さんたちにとっては、スタジオにスタッフが数十人もいて、なおかつ、大きめのスタッフ笑いがあることで無観客であることの影響はほとんどなかったようです。
◆芸人は無観客には慣れている?!
優勝したマヂカルラブリー・野田クリスタルさんがインタビューで、「僕は無観客の方がやりやすいのかなと思いました。今回はスタッフさんがいたんですけど、完全なる無観客でやるネタ番組とかあって、アレでメンタルが鍛えられました『あらびき団』ですけど。アレに比べれば全然マシでございます」と答えていました。
今回の野田さんのようなタイプの小道具をメインにしたネタは、あまり観客に左右されないのでしょうし。むしろ無観客の方が自分のペースを守れる分だけプラスに働いたようです。
また、多くの芸人はネタ番組やライブに出演するためのオーディション「ネタ見せ」を行っているので、無観客でネタをすることには慣れています。「ネタ見せ」だけでなく、本番でも無観客の『あらびき団』のような番組は芸人さんにとってキツイでしょうが…。
『あらびき団』は、深夜番組でスタッフも少ないでしょうし、1日に何十人もの芸人のネタを収録するでしょうから、スタッフもずっとは笑っていられないですし。収録の最後の方になるとスタッフが疲れて、流れ作業のようになってしまう現場は容易に想像できます。
◆そもそも「R-1ぐらんぷり」に一般客はいなかった!?
ところで、今回の「R-1グランプリ2020」の大会前の報道で、スポーツ新聞やお笑いナタリーなどのwebメディアが「一般客の観覧を中止」と報じていましたが、そもそも「R-1ぐらんぷり」の決勝のスタジオには「一般客」は存在していません。
「R-1ぐらんぷり」などのコンテスト番組の決勝大会のスタジオには、基本的にエキストラ会社に発注して集められた観覧客が観覧しています。
観覧客は、昔はハガキで応募するパターンが多かったのですが、今はNHK以外の民放局はエキストラ会社に発注するケースがほとんどだと思います。
特に個人情報保護法の成立して以降は、50人以上の応募者情報の名簿化などに、厳しい管理が求められるため、エキストラ会社に丸投げしたほうが楽だというのが現場の判断だと思います。
実際、昨年の「R-1ぐらんぷり2019」では、エンドロールに「CLAP&WALK」というエキストラ会社のクレジットがあります。この会社はテレビ業界の人間なら誰でも知っている、観覧客などを仕込むエキストラ会社で「仕出し屋」とも呼ばれています。
観客はバイトなのでリアクションもよく、スタッフの指示も素直に聴いてくれます。スムーズな進行とトラブルを避ける意味でも、特に生放送の番組ではエキストラ会社の観覧客は欠かせない存在となっています。
僕が学生だった頃は1観覧2000円から3000円ぐらいのバイト代がもらえたのですが、現在はどうなっているんでしょう?
◆テレビ番組には、なぜ観客が必要なのか?
では、お金を払ってまで、なぜスタジオに観客が必要なのか?それには大きく3つの理由があると思います。
①出演者のテンションを上げる
当然のことですが、出演者は観客のリアクションが良ければ良いほど、テンションが上がります。番組をより面白くする装置のひとつとして観客が必要なのです。
②生放送での楽しい雰囲気作り
収録番組では編集で笑い声を足すことができますが、生放送で自然な笑いを足すことは不可能に近いと思います。生放送では、番組を盛り上げるうえで収録番組より観客の必要性が高くなります。
③視聴者のリアクションの指標
スタジオの観客のリアクションは視聴者のリアクションの指標になっています。スタジオの観客が笑った部分は視聴者も笑い、観客が引いた部分は視聴者も引くであろうことが予想できます。
生放送では、視聴者のリアクションや笑い待ちの時間の指標になり、収録番組では、編集する際の指標にもなるため観客のリアクションが必要なのです。
◆無観客で、一番 影響を受けたのは?
「R-1ぐらんぷり2020」が無観客で行われたことによって、一番影響を受けたのは、大会に出場した芸人ではなく、司会・進行を務めたMC陣だったと僕は思います。
大会に出場した芸人はネタの持ち時間が決められているため、観客がいてもいなくてもネタを時間内に演じてウケることに集中すれば良いのですが、司会・進行を担うMC陣は無観客だと、観客のリアクションや笑いがないため、どうしてもトークの間を詰めてしまい、番組の進行が走りがちになってしまったように感じました。
審査員に感想を聴くブロックもそうですし、それが一番よく現れたのがエンディングだったと思います。
観客がいれば、大会に出場した芸人たちはもちろん、審査員たちも観客の笑いを取りにいくでしょうし、観客のリアクションでスタジオが盛り上がれば、さらに笑いが膨らむ展開にMC陣も進行していくでしょう。
しかし、「R-1ぐらんぷり2020」では、エンディングがスムーズに流れすぎて、時間を大きく余らせてグダグダになるという事態が発生してしまいました。これは無観客だったことが大きく影響したのではないかと思います。
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最近では「R-1ぐらんぷり」に限らず、番組収録は観覧客なしで行われています。番組の会議が中止などということが多くなりました。僕の周りでもライブやイベントが中止になり、仕事に影響が出ている人も増えてきました。
東日本大震災から丸9年たった今日ですが、改めて、エンターテイメンントの仕事は世界が平和でないとやっていけないものなのだ感じました。
新型コロナウイルスの感染の流行が早く終息して、スタジオにたくさんの人の笑い声が戻ってくる日ができるだけ早く来ることを切に願います。